『この空で歌うから』
見失うほど 灰になるほど もう 頑張らないで
想い灼けつく声は いつか
届くから
1 炎の騎士
無数の十字架が、砂まみれの丘に刺さっている。
(まるで針山のようだな)
騎士は丘を眺めながら、幼い頃、母親が裁縫をする際に使っていたそれを思い出した。しかし、ふと現れた幸せな日々の欠片は間もなく消え去り、彼は現実を見た。
刺さっている針は紛れもなく死者を弔う十字架で、山を覆うのは布の端切れではなく砂埃、その下には綿が詰められているのではなく、共に戦った仲間や部下が眠っている。
老いた親を残してきた者、生きて帰り結婚すると言っていた者、戦果を上げて出世すると勇んでいた者……。それぞれにそれぞれの想いがあったことを、騎士はよく知っている。
彼らは皆、父親から騎士団長の座を引き継いだばかりの自分を、信頼していた。
――団長、何でも仰ってください!――
――団長の言うことなら、間違いねぇや――
彼らはいつも、未熟な自分に苛立つこともせず、あっけらかんと笑っていた。
「……済まない」
騎士は唇を噛んだ。
「……」
空を見上げると、薄い雲が、流れるような速さで空を渡っていた。
(この戦争に、意味はあったのか……?)
騎士は思った。
今や世界中が戦場となっている世の中で、自分や彼らが戦争に駆り出されたのは、仕方のないことだったのかもしれない。しかしどうしても、それを「彼らを失っても仕方がない」ということと繋げられない。
この度の戦争は辛くも勝利を収めた。自分は騎士団長として成果を上げたのだが、それにも拘らず喜びの気持ちが湧かないのは何故だろう。この胸の空洞は、虚しさは、一体何なのだろう。
(何故、俺ではなかった……)
喉が痛い。
(……戻るか)
騎士は視線を戻すと、砂の丘へ静かに敬礼した。
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