『青春映画で俺は泣いた』

 映画の本編が終わり、エンドロールが流れる。
 俺は席に座ったまま、昔の友達のことを思い出していた。
――え? 結構なんでも観るよ? 邦画も洋画もアニメも。恋愛映画だって観るし、ホラーとかパニック映画も全然イケる。なんていうか作品も好きなんだけど、映画館で映画を観る、っていうのが好きなんだよねぇ――
 ビックリする程の早口だった。「よく観る映画のジャンルはあるのか」と尋ねただけだったのに。
――なんか気になるタイトルがあったら言って? 一緒に観に行くよ――
 そう言いながら、いつもお前が俺たちを誘ってきてたな、神原。
 こんな感じの青春映画も、みんなで観に行ったっけ。
 お前本当に、なんでもう居ないんだ。
 せっかく映画館で映画を観たのに、お前の感想、もう聞けないじゃんか。

   ***

 彼女が「観たい映画がある」と言うので、一緒に映画館までやって来た。
「あぁ、これCMで観たよ」
 彼女から受け取ったチケットには、見覚えのあるタイトルが書かれていた。
「結構暗そうな内容じゃない?」
「そう?」
 彼女の表情は心なしかキラキラしている。なんでも、お気に入りの俳優が出演しているのだそうで……そんな理由で観たいと思っている映画を、彼氏と観に来るだろうか、普通。自由だなぁ、と思う。嫌いではない。
「あ、入場始まったって。行こう?」
 彼女に手を引かれ薄暗いフロアを歩く。映画館なんて久しぶりだ。最後に来たのはいつだろうか。もしかしたら高校生の頃に来たのが最後かもしれない。
 席について暫くすると場内が一層暗くなり、本編が始まる前の広告が流れ始めた。俺はそれをぼんやりと眺めながら、高校生の頃を思い出していた。
 当時仲の良かった男女混合の友達グループで、時々映画を観に行っていた。とはいえみんな小遣いに限界があったから、しょっちゅう行けていた訳ではない。そのときそのときで金を持っている奴が入れ替わりながら、一人の映画オタクに付き合っていた。神原理沙。それがそいつの名前だ。女子は下の名前で呼んでいたけれど、男子は揃って神原と呼んでいた。
 今はもう会っていない。神原は二年前に死んだ。他の奴らとも、神原の通夜で顔を会わせたきり、ほとんど会っていない。
 それにしても広告の時間、長くないか?
 そう思った矢先に本編が始まった。


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